一級建築士の製図ってどうすれば合格できるか良くわからない。標準解答例を見ても、何が良くて何がダメかわからない。
こんな疑問にお答えします。
私のことを簡単に自己紹介すると、ゼネコンで10年ほど働いていて、一級建築士も持っています。
この記事はだいたい4分くらいで読めるので、サクッと見ていきましょう。
一級建築士の製図の合否基準【標準解答例から読み解く】
さっそく結論ですが、一級建築士の製図試験は基本設計です。ですので、大きな方向性を間違えていなければ合格できます。細かいミスはしてもOKです。
理由は、問題文=施主の要望で、短時間で施主の要望を反映したプラン作成能力を判断されているからです。短時間で詳細まで検討できるはずがありません。
ここで大切のなのは2つ。
製図試験の概要を2つにまとめると、この2つに分けられますが、まさにこれって建築士が実際に基本設計で行っていることですよね?
要望が文書になっていないで、直接ヒアリングするだけのパターンもあったり、時間も6時間半とは決まっていなかったりしますが、だいたいの基本設計ではこんな感じだと思います。
合否基準はこの2つ
つまり、一級建築士の製図試験とは、この要望事項を、この時間にまとめられる人を一級建築士として認める、という試験なわけですね。
そうなると、重要なのはこの2点、
この2つでしかありません。
要望を反映したプランにする
では、どうすれば要望を反映したプランにできるのかというと、問題文を正確に読み、確実に反映する、としか言いようがないです。
例えば、「南側の眺望を活かした設計をする」といった課題が出ているのに、リビングが北側にあったら、要望を反映していません。
「南側の眺望を活かす」のですから、よく使う居室は南側に配置するのが正解です。
「セキュリティに配慮する」といった課題で、受付などに鍵がなく居住者の所に行けてしまうのは、セキュリティに配慮できていないでしょう。
ですので、問題文を正確に読み、要望を反映することがとても大切です。
ムリなく建物として成立させる
2つ目は、ムリなく建物として成立させることです。
なぜなら、どんなによく見える建物でも、建てることができなければ無意味だからです。
例えば、RC造で柱のスパンを15mも飛ばしたら、特殊な技術を使えばできるかもしれませんが、普通の建物で特殊な技術を使ってコストをかける意味がありません。
謎の大空間を作るよりも、8mスパンなどのバランスが取れた構造の方がコストも安く安全です。
他にも、建物を維持するための設備スペースが無い場合も、実際に建物が使えないのでNGになります。
大切なのは、ムリなく建物として成立させることです。
平成30年の標準解答例で確認
では、H30年の課題と標準解答例で、要望が反映されたプランになっているか確認をしていきましょう。
まずは設計条件を確認すると、
本建築物は、地域住民が各種スポーツを楽しみながら健康増進を図ることができ、スポーツをとおした世代間交流ができる施設とする。また、パッシブデザインを積極的に取り入れた計画とする。なお、本建築物は、旧小学校の活用・再生を図るために、隣地のカルチャーセンター、全天候型スポーツ施設及びグラウンドと一体的に使用するものである。
引用:建築技術教育普及センター H30年一級建築士試験「設計製図の試験」設計課題 健康づくりのためのスポーツ施設
設計条件として、このように一番最初に表示されています。
ここで、確実におさえておきたいポイントはこちら。
この4つを解決してあげれば、合格が見えます。
健康増進を目的とした部屋を計画
1.健康増進は、要求室として温水プールやダンススタジオ、トレーニングルームなどが用意されているので、普通に計画するだけでOKです。
世代間交流を目的とした部屋を計画
2.世代間交流は、コンセプトルームの配置とコンセプトルームの内容で判断されます。
健康増進と世代間交流が目的なので、「子育て相談」や「食育」のようなものが具体的なテーマでしょう。
公民館のようなスペースをイメージして作成できればOKです。
パッシブデザインを採用
3のパッシブデザインは、通風や採光などでパッシブデザインが採用されていれば問題ありません。
具体的な例を言えば、トップライトやハイサイドライトの採用、ルーバーによる採光の調整などがあるでしょう。
例えばこれはプール部分を拡大した平面図ですが、南側の建具には水平ルーバー、東面には縦ルーバーを配置することで採光を調整しています。
今度は断面図を例に見てみましょう。トップライトから採光できるのももちろんですが、自然通風を確保するために、トップライトから換気できるようにしてあります。
また、多目的スポーツ室も丈夫に換気用の通風窓を確保しており、自然換気を使ったパッシブデザインです。
このように、標準解答例でも採用されており、今回の問題では合格するのにパッシブデザインを記載することが必要です。
一体的に利用するために
4の一体的に利用とは、建物へのアプローチに注意、という意味です。
結論から言うと、西か北からアプローチがあればOKでしょう。
なぜかというと、一体的に利用するためには、建物相互の通行が楽ちんでないといけないからです。
具体的な例を考えてみましょう。小学校の体育館は、校舎から行きやすいように入口が校舎を向いています。間違っても敷地の外に向かってメインの入口はありません。
つまり、今回の建物も他の建物と一体的に利用したいので、西か北にメインのアプローチを配置したいのです。
ここで、周りの敷地を見ると、西側に歩道である桜並木、北側に駐車場・駐輪場があるので、歩行者のメインアプローチは西側、サービスアプローチが北側となります。
では、標準解答例はどうなっているのか確認してみましょう。
標準解答例1ではメインのアプローチが西側、サービスアプローチが北側になっています。
歩行者専用道路からのアプローチもできるように、敷地内通路を設けていますね。
東側の道路からのサービス動線も、敷地内通路を使って北側から出入りすることで、歩車分離を実現したアプローチです。
標準解答例2でも同様に、メインのアプローチは西側、サービスアプローチが北側で計画されています。
南西に風除室を配置することで、西側と南側の両方に配慮したアプローチです。
北側の駐車場からもアプローチを確保しており、こちらのプランは難易度が少し高めですね。
このように、標準解答例でも「一体的に利用」という施主の要望を反映したプランになっています。
つまり、施主の要望を反映できなかった南側・東側にメインのアプローチがあるプランは、不合格が非常に多いです。
令和元年の標準解答例で確認
続いて、令和元年の製図試験課題の標準解答例でも、施主の要望が反映されているか確認しましょう。
設計する際の留意事項を確認すると、
留意事項
建築計画、構造計画及び設備計画については、次の点に特に留意して適切に計画する。
⑴ 公園への眺望に配慮する。
⑵ 分館と本館との来館者の動線を適切に計画する。
⑶ 教育・普及部門の展示関連諸室とアトリエ関連諸室を利用形態に応じ、適切に計画する。
⑷ 断面計画において、要求室の天井高さ又は天井ふところを適切に計画する。
⑸ 日射負荷抑制が必要な室のガラスは、Low-Eガラスを使用する。
⑹ 乗用エレベーター及び人荷用エレベーターを適切に計画する。
⑺ 設備機器の搬出入及び更新に配慮した計画とする。
⑻ 建築物の外壁の開口部で延焼のおそれのある部分には、所定の防火設備を適切に計画する。また、防火区画(面積区画、竪穴区画等)が必要な部分には、所定の防火設備を用いて適切に区画する。なお、自動式のスプリンクラー設備等を設けないものとし、また、「避難上の安全の検証」を行わないものとする。
⑼ 地上に通ずる 2 以上の直通階段を適切に計画する。また、必要に応じて、「敷地内の避難上必要な通路」を適切に計画する。
引用:建築技術教育普及センター R01年一級建築士試験「設計製図の試験」設計課題 美術館の分館
このように様々な留意事項があります。
整理したものがこちらです。
9個全部解説すると長くなるので、何個かピックアップして解説します。
公園の眺望に配慮=南側に主要な諸室を配置
公園の眺望に配慮するというのは、南側に主要な諸室を配置するということです。
たとえば、今回の課題の場合は、多目的展示室、創作アトリエ、カフェなどを南側に配置しましょうという意味ですね。
では実際に標準解答例でも配置されているか確認すると、
1F平面図ではカフェと多目的展示室が南側に配置されています。
3Fでは創作アトリエが南側に配置されていますね。屋上庭園に展示スペースも南側に配置されており、公園の眺望を活かしています。
来館者動線を適切に=本館からの動線を作る
分館と本館との来館者動線を適切に、というのは、本館から来るお客さんも多いので、建物へのアプローチは東側からにしましょうという意味です。
普通に考えると、北側の道路側からアプローチするのが自然に見えますが、あくまでも分館という位置づけであるというのがポイントでしょう。
北と東の両方アプローチを作れればいいですが、標準解答例ではどうでしょうか。
標準解答例では、北東側に風除室を配置することで、北側と東側のアプローチを確保しています。
本館から直接来る人のために、敷地中央付近にも東側のアプローチを作っていますね。
標準解答例2でも同様に建物の入り口は東に設定されています。
この敷地は間口が狭いので、搬入動線と利用者の駐車場を確保しただけで、自然と東側のアプローチになってしまう訳です。
ですが、道路側にメインアプローチを設定しないというのは、かなり難易度が高いアプローチ計画でしょう。
天井高さ、天井ふところを適切に=階高を高く
天井高さ、天井ふところを適切に書くというのは、直接的に言うと階高を高くしろという意味です。
なぜかというと、美術館の分館であるため湿度や温度を一定にして、美術品の負担にならないようにしなければいけないからです。
そうなると天井内の空調ダクトスペースを広く確保する必要があるので、天井高さを保ったままにするには、階高を上げるしかないということになります。
では標準解答例でも階高が高いか確認しましょう。
美術品の保管や展示をする展示室や倉庫は、階高4.5mとなっており、通常の階高4.0,mより高く設定されています。
多目的展示室は、大空間のため個別のダクトスペースが必要になるので、天井高さ6mですが、天井内のふところもしっかりと確保されていますね。
このように、要求事項に正確に答えることが大切です。ですので、ずれた回答はすぐに不合格候補行きです。
よくある合否基準の勘違い
ここまでは、合格するためには施主の要望を正確に反映しましょう、ということを説明してきました。
ここからは、よくある合否基準の勘違いについて、私の見解を述べていきます。
本当に図面がキレイな方が合格するの?
よく言われている勘違いの1つが、図面がキレイな方が合格するということです。
結論を言うと、図面がキレイだから合格、とはなりません。
正直図面がキレイというのは、手書きが上手いということであって、プランを作成する能力などは関係ないですよね?
なので、図面がキレイだから合格、ということはありません。
それでも、キレイな方がいいじゃん、という意見も実際にあります。
確かにそうです。きれいな図面の方が良いでしょう。
でも実際どうでしょう?フリーハンドの人も合格していますよね?
フリーハンドでも合格できる
フリーハンドでも合格できるということは、図面のキレイさは重視されてないということです。
つまり、最低限伝わる程度キレイであれば、それ以上キレイであっても無意味ということになります。
このCADやBIMが流行っているご時世で、手書きがキレイだから合格というのも納得いきませんよね?
なので、図面は伝わればOKです。
密度が濃い図面を書くと合格するのか?
密度が濃い図面ほど合格する、といううわさもありましたが、これも間違いです。
正確に言うならば、密度が濃い図面を書けるほどエスキスを短時間でまとめることができたので合格している、というのが正しいでしょう。
必要なものが書いてあればOK
大まかな方針を間違えていなければOKなので、必要なものがしっかりと書いてあればOKです。
つまり、書けと言われていないものを書いても、合否には影響がありません。
とはいえ、例えばトイレの便器が書いてないと、どれくらいの人数の使用を想定しているのか判断できません。
適切なサイズで適切な個数書いてあれば、理解していることのアピールにはなるでしょう。
ですが、トイレをいかに上手に描けたところで、全体の方針が間違っていれば、不合格です。
他にも、そもそもトイレを書けと書いてないこともありますが、トイレがないのは建物として成立していないので、不合格です。
大切なのは、全体の方針を間違えないこと、必要なものを書くことです。
なので、密度の濃さは関係ありません。
まとめ
この記事では、「一級建築士の製図ってどうすれば合格できるか良くわからない。標準解答例を見ても、何が良くて何がダメかわからない。」
こんな疑問にお答えしました。
まとめると、一級建築士の製図試験は基本設計の問題なので、問題文の内容を正確に読み取って解決してあげれば、多少ミスしてても合格できます。
この記事を参考に、製図試験の本番で力を発揮しましょう。